報道発表資料
- 報道発表
平成30年度の長崎県対馬におけるカワウソの調査結果について【6月4日】
平成29年に長崎県対馬において生息が確認されたユーラシアカワウソについて、平成30年度の環境省による調査の結果、新たに対馬市厳原町においてメス1個体の痕跡が確認されました。これにより、対馬において確認されたユーラシアカワウソは、平成29年度の調査結果と合わせ、少なくともオス、メス共に2個体、のべ計4個体であることが示唆されました。
1.経緯
・平成29年2月に、長崎県対馬において琉球大学が設置したセンサーカメラによりカワウソと思われる動物が撮影され、8月17日に同大学の伊澤雅子教授のグループが報道発表を行いました。
・環境省では、平成29年7月11日から18日に対馬島内にて痕跡調査(フン、毛、足跡、食痕等を捜索する調査)を筑紫女学園大学の佐々木浩教授に依頼して実施し(緊急調査)、採取したフン2個について九州大学医学研究院の関口猛助教に依頼してDNA分析を実施した結果、ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)のDNAが検出されました。
・また、個体識別や生息数推定を行うため、同年8月28日から9月2日にかけて対馬全域を対象とした痕跡調査(調査代表者:筑紫女学園大学 佐々木浩教授)を実施し(全島調査)、採取したフン3個からユーラシアカワウソのDNAが検出されました。
・これらの結果を踏まえ、対馬では少数の個体が河川や海岸を利用しながら生息していることが明らかになり、同年10月12日に環境省において調査結果の報道発表を行いました。
・計10個のフンについて、DNA分析(個体識別及び性判別)を実施した結果、上県町佐護と上対馬町富浦で発見されたフンからオス1個体(①)、佐護で発見されたフンからメス1個体(②)、佐護と上県町仁田で発見されたフンからオス1個体(③)の少なくとも3個体が生息していることが示唆されました。
・これらの結果について専門家とも検討を重ね、平成30年度も痕跡を確認する調査を継続してきました。
2.平成30年度調査等で明らかになった点
・平成30年12月2日から12月8日にかけて、対馬の海岸線や河川を中心に広域の生息状況調査を実施しました。そこで得られた痕跡(フン)のDNA分析を行った結果、厳原町久和で採取されたフン1個からメスのユーラシアカワウソのDNAが検出されました。
・このフンの個体識別※1を実施したところ、平成29年の調査で確認されたメスとは異なる個体(④)であることが示唆されました。
・また、環境省の調査とは別に、筑紫女学園大学の佐々木浩教授らが、これまでに対馬で得られた4個体のハプロタイプ※2を分析したところ、これまでに明らかとなっている韓国南東部のユーラシアカワウソのハプロタイプ(Kim, 2015)と一致することが明らかとなりました。
※1 個体識別:
マイクロサテライトを用いた個体識別を行いました。マイクロサテライトとは、核遺伝子の塩基配列の中で数個の塩基配列を繰り返している部分のことであり、この繰り返しの回数に個体間の変異があることから、そのサンプル中のDNAのマイクロサテライトの変異を調べることによって個体識別を行うことができます。
※2 ハプロタイプ:
遺伝子の半数体の塩基配列のこと。ミトコンドリアのハプロタイプは、種決定や地域集団の系統解析に用いられます。佐々木教授らはこれを利用して、対馬で見つかったカワウソが、どこの地域集団と共通するかを調べました。
表.分析結果
ID |
発見日時 |
発見場所 |
性別 |
推定個体番号 |
1 |
2017年7月14日 |
佐護 |
オス |
① |
2 |
2017年8月31日 |
佐護 |
不明※³ |
① |
3 |
2017年8月31日 |
富浦 |
オス |
① |
4 |
2017年9月1日 |
佐護 |
オス |
① |
5 |
2017年9月9日 |
佐護 |
オス |
① |
6 |
2017年9月30日 |
佐護 |
不明※³ |
① |
7 |
2017年11月26日 |
佐護 |
メス |
② |
8 |
2017年12月23日 |
仁田 |
オス |
③ |
9 |
2018年1月12日 |
佐護 |
不明 |
不明 |
10 |
2018年1月12日 |
佐護 |
オス |
③ |
11 |
2018年12月7日 |
久和 |
メス |
④ |
※3 マイクロサテライトにより個体識別は実施できたものの、性判定が実施できなかったため不明としている。
3.今後の予定
令和元年度は、以下の事業を実施する予定です。
・痕跡調査による個体数及び分布状況の調査の継続
・生息情報の収集及び生息環境の攪乱等の防止に関する普及啓発の推進
4.お願い
カワウソやツシマヤマネコ等の生息に影響を与えるおそれがあるので、以下の4点について、ご協力をお願いします。
(1)捕獲をしない
(2)生息地にむやみに立ち入らない(生態調査や報道目的も含めた写真撮影を含む)
(3)餌やり、餌づけをしない
(4)交通事故防止のための安全運転
5.引用文献
Kim,2015 「日本へのカワウソ再導入可能性検討 韓国におけるカワウソ生息状況から」金炫禛,2015,東京農業大学学位論文
- ■ 問い合わせ先
- 環境省
・九州地方環境事務所野生生物課
課 長 鑪 雅哉
係 長 森口 祐二
・対馬自然保護官事務所
(対馬野生生物保護センター)
上席自然保護官 山本 以智人
TEL:0920-84-5577