報道発表資料
2012年04月19日
- その他
九州・沖縄地方の地球温暖化適応策に関する報告書の公表について~地球温暖化による九州・沖縄地方への影響を知り、適応を進めるために~
九州地方環境事務所
環境省九州地方環境事務所において平成21年度より実施してきた九州・沖縄地方の地球温暖化影響・適応策検討の結果から、九州・沖縄地方でも、農業、健康、防災・水資源、森林・水産・生態系それぞれの分野において地球温暖化の影響が現実に起き、あるいは今後起こることが予想されており、地域特性に応じた適応策を推進する必要があることが明らかになりました。これらの内容を報告書としてとりまとめましたので公表します。地域における地球温暖化対策推進の一助となることを期待します。
1.九州・沖縄地方の地球温暖化の影響・適応策に係る検討について
地球温暖化の影響により世界中で様々な影響が現れています。我が国も例外ではなく、環境省の検討結果からも、地域ごとに異なった影響が現れることが明らかとなっています。
特に、九州・沖縄地方は海面水位の上昇に加え強い台風が来襲した場合の高潮浸水被害や気温上昇に伴う熱中症などの熱ストレス死亡リスクの増加が他の地域と比較して大きな影響が出ることが想定され、当該地域は環境ハザードの最前線に位置しています。
これらを受けて環境省九州地方環境事務所では、平成21年度から他の地域に先駆けて「九州・沖縄地方の地球温暖化影響・適応策に係る検討会」を設置、有識者や行政機関が持っている情報を共有し、九州・沖縄地方の地球温暖化影響把握・適応策推進に取り組んでいます。
今般、3年間の成果のとりまとめとして、報告書を作成し、九州地方環境事務所のウェブページにより公表することとしました。(https://kyushu.env.go.jp/earth/mat/m_1_1.html)
2.九州・沖縄地方の地球温暖化影響と適応策推進に係る課題(報告書より抜粋)
- a. 農業分野
- 九州・沖縄地方において、水稲、野菜、果樹の生育不良、収量の減少、品質の低下や、畜産における熱ストレスの問題など、既に地球温暖化の影響が表れている。このため、農業分野における適応策は、他の分野よりも検討・実施が進んでいるが、今後も短期的な影響への対応とともに、将来的な影響を考慮しつつ、適応策を推進していくことが課題である。
- b.健康分野
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九州・沖縄地方は気温の上昇により、熱中症のリスクが高まることが予想されている。既に、九州・沖縄の地方公共団体では、熱中症警戒情報の発信等の取組が進められているが、今後もきめ細やかな熱中症対策を進めていく必要がある。
一方、感染症については、九州・沖縄地方では、気温や海水温の上昇などにより、コレラなどの水系感染症やデング熱やチクングニア熱などの蚊媒介性感染症の発生が広がることが懸念されるため、感染症についての監視が必要であり、また、ある程度感染症の流行が予測されたときの専門家の診断等の体制、ワクチン等の予防策整備が重要である。 - c.防災・水資源分野
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九州・沖縄地方は、台風常襲地帯であるとともに、急峻な山地と急流河川が多いため、気象災害が多い状況にある上、地球温暖化によって亜熱帯化が進みつつあることで、豪雨や台風の強大化、土砂災害の発生確率の増加や大規模化等が起きている。そのため、これらの災害への免疫力を高める必要があるが、昨今の社会状況を踏まえると、大規模な防災基盤を整備していくことには限界があるため、ハード対策とともに、人々の生命を守るためのソフト対策(例えば、防災情報の的確な発信、自主防災組織の設置などの共助の取組)を進めていく必要がある。また、福岡市における都市の浸水問題や佐賀県・佐賀市における低平地の降雨による災害や高潮の問題、沖縄県における赤土流出問題など、地域の脆弱性等も考慮する必要がある。
水資源分野では、九州地方において、近年、年降水量の変動が大きくなっており、降水パターンの変化によっては、洪水リスクが高まる地域がある一方で、渇水リスクの高まる地域があることが予想される。したがって、渇水対策や節水対策などの適応策が重要である。 - d.森林・水産・生態系分野
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森林分野では、温暖化との関係は明確ではないものの、九州山地などでニホンジカの増加と樹木の食害が深刻化している。また、マツ枯れの被害が激甚化している場所もある。さらに鹿児島県では秋口から冬場の最低気温の上昇によりシイタケ生産に影響を与えている。
水産分野では、水温上昇によるノリ養殖適期の短期化や赤潮による養殖魚の被害(有明・八代海)や、水温上昇・大雨に起因する赤土流出等によりサンゴの白化現象も発生している。
生態系分野では、水温上昇に伴いサンゴ分布域が北上していることや南方系昆虫等の侵入による、従来生息していた種の減少が確認されている。 これらについて適切なモニタリングや保全対策が必要である。 - e.地域主導の取組の推進
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地方公共団体の各部署における適応策に関する認識は、あまり高いとはいえないため、①庁内外での適応策の必要性の周知や②各部署の施策に関して地球温暖化影響を考慮した検討を進めていく必要がある。
また、今後、公表が予定されている「適応策ガイドライン」を参考にしながら、九州・沖縄地方の各地方公共団体が地域特性に応じた適応策を推進していく必要があるとともに、全国的なネットワークである「気候変動適応社会をめざす地域フォーラム」(略称:地域適応フォーラム)に、多くの地方公共団体・研究機関が参加していくことが望まれる。