対馬野生生物保護センター

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2002年9月-第4回自然教室・希少野生生物の保護

2002年9月の活動

 9月1日に、第4回自然教室「希少野生生物の保護」(講師:羽山伸一先生)が開催されました。台風の中での開催となりましたが、大変興味深い内容に、参加者からは「これまでに聞いたことの無い新しい考え方でした。感動しました。」、「有意義な時間を過ごしました」、などの感想を頂きました。希少野生生物であるツシマヤマネコの住む対馬で人間の活動と野生動物が共存するためには何ができるかを考えるために、他地域の例をとって解説していただきました。

羽山氏と参加者のみなさん

地域で自然を守ってお金を生み出す方法には以下の3つが挙げられる。

1.自然の再生産力を高める
2.公共事業のミドリ化
3.自然保護産業の創造

メモを取る参加者

1.自然の再生産力を高める・・再生産力とは自然からの恵みを人間が採取した後に、再び同様の環境まで回復する力のこと。本来自然そのものに備わっている力であるが、人間からの圧力が大きすぎる場合、小さくなるか、ゼロになる。天然資源に依存する農林水産業では周辺環境の改善により、自然の再生産力を向上させることが産業の維持につながる。再生産力を高めるためには、自然を保護し、野生生物と共存することが遠いようで最も近道。

 例)北海道襟裳岬でのゼニガタアザラシの保護 
襟裳岬は森林破壊と共に進んだ海藻類の減少の影響で漁獲量が減少し、ゼニガタアザラシも絶滅寸前だった。そんな時、襟裳岬の漁師が中心となり、えりもシールクラブを発足し、ゼニガタアザラシ保護運動を始めた。同時に官民一体の植林事業が功を奏し、漁獲量とゼニガタアザラシの生息数の両方が回復した。また、野生アザラシウォッチングが観光の目玉となり、地元経済に貢献している。

2.公共事業のミドリ化・・従来の公共事業を「環境回復を目的とした事業」に転換すること。秋の臨時国会で審議予定の自然再生推進法が成立すると、「自然再生」を目的とした公共事業が各地で行われるであろう。

 例)兵庫県豊岡市 コウノトリの郷公園
兵庫県では豊岡市で日本産コウノトリが絶滅した1971年以前からコウノトリの保護増殖事業を行っている。近年は2005年の再野生化を目指し、円山川における高水敷掘削工法による湿地回復などの「環境回復のための公共事業」が行われている。

環境保護と産業について説明する羽山氏

3.自然保護産業の創設(自然保護はビジネスになる)・・豊かな自然が残る場所では、その自然をターゲットにした観光、そこで作られた産物に対して付加価値を付けることなどで、経済的にも地域にプラスが生まれる。しかしその自然が失われてしまうと、同時にその付加価値も消滅するため、自然を守りながら活用できる新しい仕組みが必要である。

 例)長野県軽井沢町
軽井沢の星野リゾートは自然を学習することで休暇を楽しむエコ・ツーリングだけでなく、軽井沢町の委託でクマなど野生動物の保護管理を行っている。その資金不足を補うために地場産業を育成し、その収益の一部を野生動物対策に使用している。小規模だが野生動物と共存するための新しいサイクルとして注目されている。

羽山氏の話に熱心に聞き入る参加者

以上をまとめると、野生動物と共存しつつ地元地域が潤う仕組みを作るためには、農林水産業組合、一般企業、行政、都市住民などがそれぞれ役割分担をしてエコシステムを正常に維持管理し活用する「エコシステムマネジメント」の導入が必要である。そして、その担い手は一部の人間ではなく、自然の恩恵を享受している全ての市民である。

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ツシマヤマネコと共存する社会を目指すにあたって、参考となる事例がたくさん挙げられました。