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沖縄奄美自然環境事務所

報道発表資料

2024年09月03日
  • 報道発表

奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶の宣言について

奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶の宣言について

1. 令和6年9月3日(火)に開催された奄美大島フイリマングース防除事業検討会において、令和5年度末までの防除作業の確定値を踏まえた根絶確率の推定結果を基に、科学的見地から特定外来生物フイリマングースが根絶に達したと評価することが妥当であるとの評価が下されました。

2. 環境省においても、上記検討会の評価に加えて関係機関からの意見も踏まえ、根絶したと判断することが適当と考えており、本日、フイリマングースが奄美大島から根絶されたことを宣言します。

 
■ フイリマングースとは
 食肉目マングース科の1種で、原産は中東から中国南部、南アジアの広い範囲に生息しています。
全長はオスで60cm、メスで50cmほど、ニホンイタチの一回り大きいぐらいの大きさです。生まれた翌年の繁殖期(奄美大島では主に3月~9月)には妊娠、年に1回程度、2~7頭程度を出産します(平均2.26頭)。
 フイリマングース(以下「マングース」という。)は、バッタやコオロギなど小型の無脊椎動物から、カエルやネズミ、ウサギなどの脊椎動物まで様々な動物を捕食します。マングースは奄美大島において分布域を広げ、2000年には推定1万頭(1999年度末の推定6,000頭+自然増加分)にまで増え、アマミノクロウサギやケナガネズミといった希少な固有の動物にも大きな影響を与えました。2005年に「特定外来生物による生態系に係る被害の防止に関する法律」(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)に基づく特定外来生物に指定されました。

■マングースの侵入と防除の経緯
 沖縄島には1910年にマングースが導入され、野外に定着していました。奄美大島には、1979年頃に沖縄島から30頭程度のマングースが持ち込まれ、名瀬市朝仁赤崎周辺に放獣されたことが関係者への聞き取りによって確認されています。
 定着したマングースの分布拡大に伴い、農畜産被害が見られるようになったことから、地元市町村では1993年から有害鳥獣としての捕獲を開始しました。また、環境省(当時、環境庁)及び鹿児島県では1996年から4年間、モデル事業として分布や個体数の調査および捕獲手法等の検討を開始しました。モデル事業の結果、マングースの分布拡大と呼応するようにアマミノクロウサギを始め多くの在来種の分布域が縮小していることが明らかになったことから、早期の対策が必要と判断し、2000年より環境省(当時、環境庁)及び鹿児島県により防除事業(捕獲数当たりの報奨金制度)を開始しました(2001年からは環境省のみによる実施)。
 しかし、マングースは行動圏が小さく、車道沿いで捕獲を行うだけでは分布域の縮小にはつながらなかったことから、マングースの根絶を目指すためには、林内を含めたより綿密なわな配置が必要であると考えられました。
 環境省では、2005年に外来生物法が施行され、本種が特定外来生物に指定されたことを踏まえ、マングース対策のためのプロ集団「奄美マングースバスターズ」を結成するなど、本種の防除体制を強化しました。以後、このバスターズを中心として、林内を含めて島のほぼ全域に渡って高密度にわな(3万個以上)や自動撮影カメラ(300台以上)を設置・管理するとともに、マングース探索犬の導入、終盤に残された対策困難地における殺鼠剤を利用した対策を実施してきました。さらに、バスターズによる捕獲わなの混獲回避のための度重なる改良や、探索犬とハンドラーの連携による個体捕獲手法の開発など、あらゆる手法を駆使して防除を進めてきました。


 こうした組織的かつ長期間にわたる不断の地道な取組、科学的な知見に基づく防除計画の立案と進行管理、地域住民を含め多くの協力者との連携が実を結び、防除事業の進捗と共にマングース個体数の大きな削減に成功し、2018 年4月に最後の1頭を捕獲して以降、約6年間に渡って、わなでの捕獲や探索犬による検出、自動撮影カメラによる撮影などの明らかな生息情報は確認されていません。
 
図1. マングースの推定個体数(折れ線グラフ:黒点線は5%、95%信頼区間、黒実線は50%)と捕獲個体数(折れ線グラフ:赤実線)、捕獲努力量(棒グラフ:水色は生捕りカゴわな、黄緑色は捕殺式わなによるわな日)。
 
 
■ 根絶の判断
 奄美大島のマングース防除においては、マングースの捕獲数がゼロになった後も、2023年度までそれ以前と同様の捕獲・探索努力を継続してきました。しかしながら、一般に、ある生物種がその地域から完全にいなくなったことを確実に確認することは非常に困難であり、捕獲数がゼロになったことをもって根絶できた、という判断はできません。このため、マングースの根絶確率の評価手法として、エリアベースの根絶確率算出HBM(Harvest-based Model)と個体ベースの根絶確率算出REA(Rapid Eradication
Assessment)の2つの根絶確率の算出モデルが考案されました。(※)
 2023 年度末までの防除作業の確定データを踏まえた評価結果から、HBM で99.7%、REAで98.9%の確率でマングースの根絶確率が示されました。これらの結果から根絶と評価することが妥当であるという有識者の評価を踏まえ、環境省は関係行政機関とも協議の上で、2024 年9月3日(火)、奄美大島におけるマングースの根絶を宣言することとしました。

※2022~2024年度に実施された環境研究総合推進費「侵略的外来哺乳類の防除政策決定プロセ スのための対策技術の高度化(課題代表:沖縄大学城ヶ原貴通教授)」により考案。
 
  図2. HBMとREAの2つの根絶確率算出モデルで算出された根絶確率。


■マングース根絶の成果
 世界において、奄美大島における事例以前にマングースの根絶に成功した島は9島であり、長期間定着した繁殖個体群を計画的な防除により根絶に成功した事例として面積が最大の島は115ha のFajou Island(国の名前)でした(Barun et.al., 2011)。これらを遙かにしのぐ面積(71,200ha)である奄美大島におけるマングースの根絶は、四半世紀にわたりマングースの根絶に取り組んできた組織・人々によって成し遂げられた、生物多様性保全上の重要な世界初の成果です。
 マングースの導入以降、その個体数や分布域が拡大するにつれて様々な在来種がその分布域を縮小させてきましたが、マングース防除が進むにつれ、アマミノクロウサギやアマミハナサキガエル、オットンガエル、アマミイシカワガエルなどの回復傾向が明らかになるとともに(Watari et. al., 2013)、アマミトゲネズミとケナガネズミの回復も見られる(Fukasawa et. al., 2013)など、幾つかの種で生息状況の改善が明らかになってきました。その後もオオトラツグミ(Mizuta et.al., 2017)やアマミヤマシギ(環境省奄美野生生物保護センター,未発表)など様々な種で分布域が改善されてきていることが判明しており、マングースの防除・根絶が奄美大島の生態系の改善に大きく貢献したと考えられます。
 奄美大島は、その国際的に希少な固有種に代表される生物多様性の豊かさ等が評価され2021年7月に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界遺産に登録されました。在来種の回復は、奄美大島を含む奄美群島国立公園の保全や、この世界遺産の登録に大きく寄与したと考えられます。
 マングースの根絶に伴い、マングースによる農畜産被害は消失しました。また、奄美大島では、島に生息・生育する生きものを観察するツアーが観光の大きな柱となっており、在来種の回復が好影響を与えていると考えられます。
 
図3. 奄美マングースバスターズが実施している自動撮影カメラによる撮影頻度(1,000カメラ日当たりの撮影枚数)の推移。ケナガネズミやオーストンオオアカゲラなどは地上に設置したカメラに補足される機会が少ないため、他種に比べて変化が把握しにくい。

 
■マングース根絶後のこれから
 侵略的外来種の根絶を目指そうとするとき、対象種の生態を把握した上で、現状の防除作業が分布域全体をカバーできているのか、分布域の拡大が抑えられているのか、どのように個体群の縮小に機能しているのか等、根絶に向けた十分な対策が取れているかを常にモニタリング・評価していくことが不可欠です。奄美大島のような起伏が大きく複雑な地形を有する大面積の島でマングースを根絶できたことは、今後の我が国や海外の外来種対策の参考となる優良事例となり、対策の推進に寄与することが期待されます。
 他方で、マングースが持ち込まれなければ、被害も捕獲も、そして、長きにわたる多くの関係者の苦労もありませんでした。第二のマングースを生まないために、我々人間には外来種被害予防三原則「入れない・捨てない・拡げない」を遵守していく責任があります。

【参考】
・奄美野生生物保護センター ホームページ
 https://kyushu.env.go.jp/okinawa/awcc/index.html
以上

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環境省自然環境局野生生物課
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室長補佐:藤田 道男
係長:田口 知宏

沖縄奄美自然環境事務所
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所長:北橋 義明
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