九州地区のアクティブ・レンジャーが、日々の活動や地域の魅力を発信します。
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出水自然保護官事務所のアクティブレンジャー、本多です。
今回は、藺牟田池(いむたいけ)にて行われたベッコウトンボ頭数調査の様子をお伝えいたします。
藺牟田池は薩摩川内市の東部に位置する、円形の面積約60haのカルデラ湖です。南九州地区では珍しい泥炭湿地が形成されており、また希少種であるベッコウトンボの生息・繁殖地になっています。加えて、ラムサール条約湿地や国指定天然記念物(藺牟田池泥炭形成植物群落)等に指定されており、多方面からその価値が認められている自然環境です。
※上空から撮影した藺牟田池。噴火によって形成された外輪山に囲まれています。(小園建設・前田氏撮影)
藺牟田池では、昨年よりベッコウトンボの頭数調査が地元関係者によって行われています。地元の子供たちが中心となって、ベッコウトンボを数えながら地域の自然と触れ合う、藺牟田池ならではのユニークなイベントです。
今年は4月22、29日(土)に二回の頭数調査が実施されました。大型連休前のこの時期には、ベッコウトンボの頭数もピークを迎えます。両日とも天候に恵まれ、絶好の「ベッコウトンボ日和」となりました。
※頭数調査の説明の様子(左)と調査エリアの図(右)。
調査は、藺牟田池を14のエリア(陸地12ヶ所・水面2ヶ所)に分けて行われます。参加者は陸地のエリアを担当し、二つのルートに分かれて移動しながら、視認できたベッコウトンボをカウントしていきます。各エリアのカウント数の合計がその日のベッコウトンボの頭数になります。
※ベッコウトンボを数える子供たち。
最初のエリアに到着すると、早速多数のベッコウトンボが出迎えてくれました。子供たちは我先にとカウントを始め、「○○頭みつかったよ!」という元気の良い声が聞こえてきました。一方、大人たちはカメラを取り出し、静かにベッコウトンボへと近づいていきシャッターチャンスをうかがっていました。対照的な光景が印象に残ります。
※オオヤマトンボの羽化(左)とウォーキングコースを散策する参加者の方々(右)
調査を実施した2日間とも、たくさんのベッコウトンボを確認することができ、調査中は終始カウンターの音が鳴りやみませんでした。また、ベッコウトンボの他にも、ウォーキングコース沿いのツツジやオオヤマトンボの羽化シーンを観察でき、ちょっとした発見や驚きのあるイベントとなりました。
二日間での調査結果は、4月22日の調査では合計1218頭、29日は1299頭という結果でした。昨年は100頭程しかカウントされなかったため、今季は平年と比較するとベッコウトンボの頭数が増加傾向にあるようです。
※周辺の草木にとまったベッコウトンボ。
ところで、ベッコウトンボについて簡単に説明します。
ベッコウトンボは体長4cm程の小さなトンボです。飛んでいる姿は「小さくて地味なトンボ」という印象ですが、近づいて観察すると、名前の由来となる「べっこう色」がはっきり見え、とても美しいトンボであることが分かります。警戒心があまり無いようで、草木にとまっているところへ接近しても、まったく動じない個体もいます。
かつては日常的に見られたトンボだったようですが、現在では環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)に指定されており、絶滅が懸念されています。これは、幼虫(ヤゴ)の住処となる水辺と、成虫の休み場所となる草木が生い茂った環境が人間の開発行為等によって失われたことが大きな原因だと言われています。
九州では、響灘ビオトープ(北九州市)と野依新池(中津市)そして、ここ藺牟田池がベッコウトンボの主な生息地になっており、藺牟田池は最も安定した場所だと言われています。なぜならば、藺牟田池は外輪山に囲まれた特殊な地形をしているため開発の対象になりにくく、ベッコウトンボの住処が人為的に破壊される可能性が低いからです。しかし、オオクチバスやブルーギル等の外来種による捕食や、カルデラ湖という地理的特性により、流入河川がなく、渇水によるヤゴの大量死が懸念されており、必ずしも安全というわけではありません。
環境の変化に敏感なベッコウトンボの生息地の減少は、私たちの自然に対する意識をそのまま反映しているように思います。
※22日(左)・29日(右)の頭数調査の集合写真。
藺牟田池では今回の頭数調査のようなイベントが多く開催されており、自然と人とのかかわりが深いように思います。身近な存在であるからこそ、人々の交流の場として、時には生き物の「先生」として、様々な恩恵を私たちにもたらしてくれているのだと実感します。そうした藺牟田池の自然を、後世へ残していきたいと改めて実感しました。
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アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、瀬戸内海、西海、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、屋久島、慶良間諸島、西表石垣国立公園、やんばる国立公園、奄美群島国立公園があります。
出水自然保護官事務所のアクティブレンジャー、本多です。
今回は、藺牟田池(いむたいけ)にて行われたベッコウトンボ頭数調査の様子をお伝えいたします。
藺牟田池は薩摩川内市の東部に位置する、円形の面積約60haのカルデラ湖です。南九州地区では珍しい泥炭湿地が形成されており、また希少種であるベッコウトンボの生息・繁殖地になっています。加えて、ラムサール条約湿地や国指定天然記念物(藺牟田池泥炭形成植物群落)等に指定されており、多方面からその価値が認められている自然環境です。
※上空から撮影した藺牟田池。噴火によって形成された外輪山に囲まれています。(小園建設・前田氏撮影)
藺牟田池では、昨年よりベッコウトンボの頭数調査が地元関係者によって行われています。地元の子供たちが中心となって、ベッコウトンボを数えながら地域の自然と触れ合う、藺牟田池ならではのユニークなイベントです。
今年は4月22、29日(土)に二回の頭数調査が実施されました。大型連休前のこの時期には、ベッコウトンボの頭数もピークを迎えます。両日とも天候に恵まれ、絶好の「ベッコウトンボ日和」となりました。
※頭数調査の説明の様子(左)と調査エリアの図(右)。
調査は、藺牟田池を14のエリア(陸地12ヶ所・水面2ヶ所)に分けて行われます。参加者は陸地のエリアを担当し、二つのルートに分かれて移動しながら、視認できたベッコウトンボをカウントしていきます。各エリアのカウント数の合計がその日のベッコウトンボの頭数になります。
※ベッコウトンボを数える子供たち。
最初のエリアに到着すると、早速多数のベッコウトンボが出迎えてくれました。子供たちは我先にとカウントを始め、「○○頭みつかったよ!」という元気の良い声が聞こえてきました。一方、大人たちはカメラを取り出し、静かにベッコウトンボへと近づいていきシャッターチャンスをうかがっていました。対照的な光景が印象に残ります。
※オオヤマトンボの羽化(左)とウォーキングコースを散策する参加者の方々(右)
調査を実施した2日間とも、たくさんのベッコウトンボを確認することができ、調査中は終始カウンターの音が鳴りやみませんでした。また、ベッコウトンボの他にも、ウォーキングコース沿いのツツジやオオヤマトンボの羽化シーンを観察でき、ちょっとした発見や驚きのあるイベントとなりました。
二日間での調査結果は、4月22日の調査では合計1218頭、29日は1299頭という結果でした。昨年は100頭程しかカウントされなかったため、今季は平年と比較するとベッコウトンボの頭数が増加傾向にあるようです。
※周辺の草木にとまったベッコウトンボ。
ところで、ベッコウトンボについて簡単に説明します。
ベッコウトンボは体長4cm程の小さなトンボです。飛んでいる姿は「小さくて地味なトンボ」という印象ですが、近づいて観察すると、名前の由来となる「べっこう色」がはっきり見え、とても美しいトンボであることが分かります。警戒心があまり無いようで、草木にとまっているところへ接近しても、まったく動じない個体もいます。
かつては日常的に見られたトンボだったようですが、現在では環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)に指定されており、絶滅が懸念されています。これは、幼虫(ヤゴ)の住処となる水辺と、成虫の休み場所となる草木が生い茂った環境が人間の開発行為等によって失われたことが大きな原因だと言われています。
九州では、響灘ビオトープ(北九州市)と野依新池(中津市)そして、ここ藺牟田池がベッコウトンボの主な生息地になっており、藺牟田池は最も安定した場所だと言われています。なぜならば、藺牟田池は外輪山に囲まれた特殊な地形をしているため開発の対象になりにくく、ベッコウトンボの住処が人為的に破壊される可能性が低いからです。しかし、オオクチバスやブルーギル等の外来種による捕食や、カルデラ湖という地理的特性により、流入河川がなく、渇水によるヤゴの大量死が懸念されており、必ずしも安全というわけではありません。
環境の変化に敏感なベッコウトンボの生息地の減少は、私たちの自然に対する意識をそのまま反映しているように思います。
※22日(左)・29日(右)の頭数調査の集合写真。
藺牟田池では今回の頭数調査のようなイベントが多く開催されており、自然と人とのかかわりが深いように思います。身近な存在であるからこそ、人々の交流の場として、時には生き物の「先生」として、様々な恩恵を私たちにもたらしてくれているのだと実感します。そうした藺牟田池の自然を、後世へ残していきたいと改めて実感しました。