対馬野生生物保護センター

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とらやまの森第10号

 

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対馬の動物シリーズその10


ハヤブサ

タカ目 ハヤブサ科 ハヤブサ
学名:Falco peregrinus 英名:peregrine falcon 漢字:隼
国内希少野生動植物種、絶減危惧2類(レッドリスト)

 対馬は野鳥の宝庫である。日本で知られる鳥類のうち、その半数以上の約320種程が対馬で観察されている。
 5月のゴールデンウィーク中は全国から鳥を見に来るバードウォッチャーで大変賑わうものだ。今回は、観察される鳥の中でもずば抜けた飛翔力を持ち、優れた狩りの能力で食物連鎖の頂点に位置するハヤブサを紹介しよう。
 ハヤブサは北海道から九州まで留鳥として繁殖する。北の方から越冬のため渡ってくる個体群もある。ワシ・タカの仲間は、メスの方がオスに比べて体の大きいものが多いのだが、ハヤブサは特にメスの方が大きい。全長はオスで40cm前後、メスは50cm前後で、翼開長(翼を広げた長さ)はオス100cm前後、メス115cm前後である。成鳥の体と翼の上面は灰色がかった紺色で頭部や頬のハヤブサひげは黒っぽい色をしている。下面は白く嘴の根本は黄色い。一方、幼鳥や若鳥は、翼の上面が暗褐色で下面は淡い茶色であり、嘴の根本は灰色。主に小~中型の鳥類(ドバト、ムクドリ、ツグミ、ヒヨドリ等)を急降下して、捕食する。急降下するときには、時速300kmを超えることもあるらしい。


 上県町棹崎の断崖絶壁の岩棚にはハヤブサの巣があり、2000年5月9日、親鳥がエサを運んでくると、「ピーピーピー」とねだる幼鳥の声を聞いた。無事に育ってくれればいいのにと思った。5月20日には、巣の前でウロウロしている若鳥の姿を観察することができ、巣立ちの日も近いなと感心しながらその場を後にした。6月に入ってからも一度だけ観察に行ったのだが、その時は親鳥しか見ることができなかった。もう巣立ってしまったのかもしれない。

 7月2日午前10時頃に上県町佐護湊の漁師の方によってハヤブサの若鳥が、対馬野生生物保護センターに持ち込まれた。この方の話によると、棹崎沖で疑似餌を船で引っ張って漁をしていたところ、海の中の疑似餌にハヤブサが飛びつき足に針が掛かったということだった。巣立ったばかりのハヤブサに間違いないと思った。早速、段ボール箱の中を覗いてみると、羽が海水で濡れており、足に少し傷を負っていた。幸い翼も足も骨折等が無く少しホッとした。羽が乾いてから体力の回復を待って放鳥することに決めた。そこで、スーパーの精肉売場へ行き、鳥レバーと手羽先肉を約400gずつ購入した。ハヤブサが入っている段ボールの箱の蓋を開けると、「ハーッハーッハーッ」と口を大きく開けて威嚇してくる。レバーを程良い大きさに切り分けてから箸で摘んで嘴の前に差し出すとパクッと食いついてきた。それを何度も繰り返し、食べるだけ食べさせてみると、150g程食べたあたりで嘴を閉じたまま開かなくなった。次の日の朝、様子を見るために蓋を開けると相変わらずこちらを威嚇してくる。少し餌を食べさせて巣の見えるひらけたところまで連れていき放鳥を試みたが、まだ体力が回復していないのか充分に羽ばたいて飛ぶことができない。次の日もその次の日も試みたが失敗に終わった。センターには傷を負ったヤマネコ等をリハビリさせて再び野外へ返せるようにするためのフェンスで囲まれた野外飼育ケージがあるので、その中でリハビリテーションを行い、飛べると判断できるまで飼育することにした。7月7日には餌の食いも良好で、フェンスの端から端まではきちんと羽ばたいて飛べるようになった。これならいけると思った。


 7月8日いよいよ放鳥の日、気温の上がらない午前中が放鳥には適しているため、朝のうちに餌を少しだけ食べさせて輸送用の段ボール箱へ移した。ハヤブサなどの猛禽類は嘴と足には充分注意しなくてはならない。こちらがケガをしかねないからだ。棹崎公園内にある一番高いと思われる砲台の跡地の近くに箱をおいた。適度に風があって絶好の放鳥日和だった。蓋を開け、とまり木を掴ませて箱の外へ出すと勢い良く羽ばたき気持ちよく空を旋回して姿が見えなくなった。その後も棹崎付近で蝶を空中で捕まえて食べていたり、悠々と大空を旋回しているのを9月には行ってからも確認することができた。
 独り立ちした若鳥の60%以上がその年の冬を乗り切ることができず、2年目以降は死亡率は下がるが、成鳥の25%程が毎年命を落とすらしい。無事にこの冬を乗り切り、立派なハヤブサに成長してくれる事を祈っている。  <Mk>



読者の声コーナー

 このコーナーは、読者の方々から寄せられたご意見を取り入れたり、ご質問にお答えするコーナーです。毎回発行後にはたくさんの反応をいただきますが、今回は本誌の愛読者である東京都のMさんからいただいた励ましのお便りを紹介いたします。

  •  「はじめましてよろしくね」の台詞と、仔猫の恐怖と緊張の入り混じった表情とのギャップがとても印象的でした。また、上手な絵の仔猫の数と文章の仔猫の数が一致していないけど、編集のほうできっと何らかの葛藤があったんだろうなと思ってみたりもしました。編集者の苦労が伺えます。まずはおつかれさま。
  • 人工飼育で仔猫が生まれましたか。関係者はひとまずほっとしたことでしよう。しかし、ツシマヤマネコの情報は非常にHOTで情報に勢いがあるねえ。
  • 対馬の自然や文化・生活習慣、季節の移り変わり、内容に深みを与える寄稿文など、内容的には十分な感じがする。次回は夏休みに入ることだし、対馬の少年少女の自然に対する考え、興味などを絡ませた内容も見てみたいねえ。時間・体カ・気力が必要だけど、次世代の人間に環境保全の重要性など知らせることができればメリットは大きいよね。

 前9号の表紙を飾った福岡動物園のツシマヤマネコの仔ネコの写真は、Mさんをはじめ、たくさんの方に好評をいただきました。仔ネコは9月末現在も元気ですくすく育っている模様です。棹崎公園でも幼さの残る若いヤマネコだと思われる個体が何頭か目撃されています。彼らが安心して暮らしていける対馬を残していきたいものです。

 Mさんには、「対馬花の絵はがき」をお送りいたします。これからも、「とらやまの森」をどうぞよろしくお願いします。  <Ask>


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