対馬野生生物保護センター

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とらやまの森
環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第9号

 

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フィールドノートから


捕獲個体の放逐について

 前号までで、生態調査のための捕獲の方法と捕獲した個体の健全性調査のための検疫について、あらましを説明してきた。捕獲したツシマヤマネコは、血液検査の結果が出るまでの間、対馬野生生物保護センターの検疫室で飼育することになる。というのは、検査の結果捕獲したヤマネコが感染性のウイルス等を持っていた場合、野外に放すと他の健康なヤマネコと接触して病原菌を撒き散らす可能性があるため(そうなると種にとってはさらに絶滅のおそれが高まる)、現在センターで隔離飼育中のウィルスキャリア個体と同じように野外から隔離する必要があるからだ。我々でもできる簡易検査の結果、FIVとFeLVに関しては陰性だったため一応安心したが、詳しい結果が出るまでは気を抜けない。
 数日間、捕獲したヤマネコを飼育しなくてはならないが、野外に戻すことが前提であるため、なるべく人の影響を最小限にするように気をつかう。今までにも飼育下繁殖のための捕獲の際に何頭かのヤマネコを検疫室で世話してきたが、各個体には個性もあるが共通点もあるように思える。全部が全部そうとは言えないが、オスの場合は人を見ると「フーッ」と威嚇してくるのに対し、メスは異常なほどおとなしく人の姿が見えないように物陰に隠れてジーッとしていることが多い。今回捕獲したヤマネコはメスだったため、具合でも悪いのかとこちらが思うほどおとなしかった。エサは生きたマウスと飲み水を与える。掃除は隔離飼育中のヤマネコの場合は念入りにやるのだが、生態調査のためのヤマネコの場合は、やはり野に放すことを考えて簡単に済ませることにしている。もちろん放逐したあとは特に念入りにするのだが・・・。
 捕獲日から4日後、ようやく検査機関からの連絡が来た。待ちに待った検査結果が出たのだ。それによると全ての項目について陰性(正常)だった。よかった、と思うと同時に放逐の準備にとりかかる。飼育ケージの中に輸送用の箱を入れて、ヤマネコにその中に入ってもらう。なかなか素直に入ってはくれないが、ついたての裏に隠れて見ているとようやく入ってくれた。それを確認して素早く箱のふたを閉めて放逐準備完了。あとは捕獲地点に運んで放すのみである。捕獲地点に着くと輸送用の箱を地面におろし、一応もう一度電波発信機の発信状態をレシーバーで確認する。そーっとふたを開ける。少し間をおいてササッと箱から出て山に向かって走る。時刻を確認していると、山の途中まで走ってこちらを振り返り、「逃げてやったよ」というような顔でこちらを見て、山奥に消えた。(次号につづく)


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