対馬野生生物保護センター

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とらやまの森
環境省 対馬野生生物保護センター ニュースレター

とらやまの森第2号

 

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「イリオモテと比べると・・・」


環境庁自然保護局 九州地区国立公園・野生生物事務所長
国安俊夫

 この「とらやまの森」を発行している「対馬野生生物保護センター」は正式には施設の名称で、組織上は「環境庁自然保護局九州地区国立公園・野生生物事務所対馬分室」という長い名前を持ち、熊本県阿蘇にある九州地区事務所の出先機関に位置づけられています。(注1)
 私はこの4月に沖縄地区事務所長から九州地区事務所長に着任しましたが、前任地ではイリオモテヤマネコの保護増殖事業と関わり、引き続きこちらでもツシマヤマネコと関係できることはこの上ない幸せであるとともに、責任も重く感じております。現在「種の保存法」(注2)で「国内希少野生動植物種」(注3)に指定されている哺乳類はこの2種のみです。
 イリオモテヤマネコに対しては環境庁では地元に国立公園管理事務所があったこともあり、ツシマヤマネコより早めに様々な対策をとってきました。(表1)
 前任地に着任した平成7年の7月にイリオモテヤマネコの保護増殖及び調査研究の拠点、自然保護思想の普及啓発のための施設として西表(いりおもて)野生生物保護センターがオープンし、その後ほぼ3年間に渡りその活動の充実に努めてきました。そこで、今後の対馬野生生物保護センターを拠点とした活動を考えていく上で参考となりそうなことを少し記しておきたいと思います。

 イリオモテヤマネコの保護増殖や調査研究については営林署と密に連絡を取りながら実施し、年次報告書も共同して発行するなどしております。また、ヤマネコの大きな死亡原因である交通事故を防止するためのキャンペーンを、関係機関が合同で平成7年度より毎年実施しています。このほか野生生物に配慮した道路構造に関する技術的相談などにも乗っております。
 センター開設当初のスタッフは2名でしたが、事業の展開に合わせて順次増員を図り、現在では4名が常勤しています。それぞれが哺乳類・昆虫・海岸生物・植物の得意分野を持っており、西表の自然についてセンターに問い合わせれば一応なんでも答えられる体制が出来あがりました。このため、現地調査のために入島する研究者も必ず立ち寄るようになり、ヤマネコのみならず西表島の自然情報の収集・蓄積・発進の基地としての役割を果たしています。このようにして集まってきた情報を活用したエコ・ツーリズムの支援もこのセンターの設置目的のひとつになっており、平成8年5月に発足した西表島エコツーリズム協会の事務局もセンター内に置いています。また、自然に関する書籍も揃えているため、地域の自然に関する図書館としての役割も果たし、地元の子どもたちが気軽に立ち寄ってくれ、子どもたちを通じて地域住民の意識も徐々に変わり、島外からのお客さんを積極的に案内してきてくれるようになりました。
 去る6月12日、環境庁では哺乳類のレッドデータリスト(注4)の見直し結果を発表し、ツシマヤマネコの方がイリオモテヤマネコに比べ危機的状況が高いとの判断を下しました。ツシマヤマネコについては、これまで長崎県にお願いをして取り組んでいただいてきたところですが、昨年対馬分室が開設され今後は順次当センターを拠点として環境庁が直轄で行う部分を増やしてゆきたいと考えております。また、ツシマヤマネコに対しての取り組みに際しては、イリオモテヤマネコでの経験を生かし、かつそれぞれの地域の歴史や自然、社会条件の違い(表2)等を考慮しながら改善を加え対処してきました。このためイリオモテヤマネコに比べての遅れも徐々に解消されてきております。しかしながら、国の財政難の折から予算についても人員についても削減されることはあっても増加する可能性は非常に小さい状況の下、様々な工夫を凝らしながらいかに理想に近づけた事業を促進していくか大きな課題を抱えていますので、皆様のこれまで以上のご理解とご協力をお願いいたします。

(注1)環境庁では全国を11ブロックに分け、各ブロックに自然保護局の出先機関として国立公園・野生生物事務所を配置し、国立公園及び絶滅のおそれのある野生生物等に関する現地管理業務を行っています。さらに、地域とより密着した事業を行うため分室と国立公園管理官事務所を置いています。

(注2)平成5年4月1日に施行された法律。正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」といいます。

(注3)国内において絶滅の危機に瀕しており保護を図る必要がある野生動植物種として、現在、鳥類39種、哺乳類2種、爬虫類1種、両生類1種、魚類2種、昆虫類4種、植物5種を「国内希少野生動植物種」に指定し、捕獲、譲り渡し等を規制しています。

(注4)日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト。哺乳類は旧版の14種から47種に増加しました。

絶滅危惧1類

 絶滅の危機に瀕している種(現在の状況をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難なもの)。

1A類 (ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)と、
1B類 (1A類ほどではないが近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に細分される。

絶滅危惧2類:絶滅の危険が増大している種(現在の状況をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧1類」のランクに移行することが確実と考えられるもの)。

※「1」類、「2」類の数字はローマ数字。機種依存文字のため。

表1 ツシマヤマネコとイリオモテヤマネコの行政の取り組み比較

  ツシマヤマネコ イリオモテヤマネコ
国天然記念物指定 1971(S.46) 1972(S.47)特天1977(S.52)
第1次特別調査 1985(S.60)~1987(S.62) 1974(S.49)~1976(S.51)
第2次特別調査 1994(H.6)~1996(H.8) 1982(S.57)~1984(S.59)
第3次特別調査 未定 1992(H.4)~1993(H.5)
推定生息数 70~90頭 99~110頭
改訂レッドデータリスト 絶滅危惧IA類 絶滅危惧IB類
国設鳥獣保護区設置 1989(H.1) 1992(H.4)
給餌(モニタリング)事業開始 1989(H.1) 1979(S.54)
国内希少野生動植物種指定 1994(H.6) 1994(H.6)
保護増殖事業計画告示 1995(H.7) 1995(H.7)
野生生物保護センター開所 1997(H.9) 1995(H.7)

表2 対馬と西表島の比較

  対馬 西表島
面積(平方キロ) 708 285
人ロ(人) 43,500 1,900
町村数 6 1
観光客(万人) 46 20

表3 野生生物保護センターの比較

  対馬 西表
事業費(百万円) 507 473
敷地面積(平方メートル) 2,183 6,683
建築面積(平方メートル) 585 553
延べ床面積(平方メートル) 812 704
職員数(人) 4 4
入館者数(人) 12,561 12,086


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