対馬野生生物保護センター

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2002年9月22日(日)-第5回自然教室・対馬の海の世界

2002年9月の活動

 第5回自然教室は9月22日に「対馬の海の世界」という課題で行われました。対馬の漁業が直面している問題を、上県町御園(みそ)、犬ヶ浦の若手漁師で作る「対馬やまねこ企業組合」の組合長、國分安則氏にお話していただきました。今回はナチュラリストの柚木修氏との対談形式で開催しました。講座の後、「中性洗剤を使わないようにするなどの身近なことからはじめたい」、「森の管理をするにも、高齢化と人材不足があり難しい」、「ボランティアでできる森林管理の方法はないだろうか」などの意見、質問が出されました。

<対馬海暖流>

國分安則氏と柚木修氏の対談風景

 対馬海区周辺を流れる対馬暖流は対馬南端で西と東に分かれる。対馬近海は潮の流れが速く、良好な魚場として知られている。対馬西岸の漁師は南は男女群島から北は山口沖まで広範囲に漁に出て対馬暖流に乗ってやってくる魚を追う。

<魚種と漁法>

漁具について説明する國分氏

 御園、犬ヶ浦の漁師の多くは、ヨコワ釣りを主として操業する。そして季節によって、カツオ、ブリ、タチウオ、アナゴ、イカなどを獲る。しかし最近は島外からのまき網漁船が多く、魚が釣れ始めるとまき網が来て群れごと根こそぎ魚を獲っていってしまう。まき網漁とは、魚群の周囲を網でかこんで、「きんちゃく袋」を絞る要領で一気に仕留める方法だ。すると、一本釣りでは魚は釣れなくなり、さらに市場への同一魚種の過剰供給で値段は下がる。一時期まき網漁船への妨害も行ってみたが、毎日付いて歩く訳にもいかず効果が薄いことから現在は行っていない。まき網などの漁法は高額の設備投資が必要であり、小型船の一本釣り漁師には整備できるものではない。

写真 左・柚木氏、右・國分氏
國分氏が手に持っているのは漁に使う道具で通称バクダンというものです。

「漁に使うこの電球は、ひとついくらぐらいですか?」

<舟への高額な投資>

漁で使用する照明について説明する國分氏

 一本釣りの舟は5トン以下のものが多いが設備投資には舟だけで少なくとも2000万円以上かかる。その他に漁具や照明などをそろえると、上限は無いといってよいほど高額になる。近年は遠方へ行かないと漁ができないために、強力なエンジンを載せるなど、さらに多くの設備投資が必要となっている。
対馬の漁獲量 対馬の漁獲高は年々減少している。生活を養うために十分な量の魚を獲るためにはかなり遠方まで出掛けていかなければいけないのが現状だ。一度漁に出ると最低でも2万円の燃料が必要で、最近は燃料代にもならない赤字の漁が多い。

<磯やけの漁業への影響>

漁業と環境について訴える柚木氏

 対馬でも磯焼けが各地で報告されている。磯やけとは、沿岸の海藻が無くなり、それを食べて育つ貝類その他の生物も死滅した状態のことである。磯やけの原因として、①沿岸海水温の上昇、②スギの植林による栄養塩類の減少、③護岸、堤防工事の影響、④生活廃水、⑤ウニ獲りの際の転石、⑥海藻を食べる魚種が増えた、などが挙げられる(長崎県対馬支庁水産普及指導センターの高田淳司所長談)。これらの内の1つだけが原因になっているのではなく、それぞれが絡み合って磯やけが起こっているのではないだろうか。港湾整備によって漁師は安心して船を港につないでおくことができるが、皮肉にも魚を養うために重要な干潟や藻場が失われ、漁業資源の保護にとってはマイナス面もある。

<森林と漁業資源の関係>

 「森は海の恋人」という言葉があるように、漁業資源の維持には森林保護が必要だと言われる。社団法人「海と渚の環境美化推進機構」が支援する「漁民の森作り活動」は、平成13年度には全国131ヶ所で行われた。また、北海道でゼニガタアザラシによる漁業被害対策を考えながら共存を目指す、漁師を主としたグループ「えりもシールクラブ」についても紹介した。漁業は天然資源に依存している産業である。ヤマネコの棲むような自然を守ってこそ漁業を続けてゆくことが可能になるのではないだろうか。

<対馬やまねこ起業組合の目指すもの>

 対馬の魚介類の価格は福岡の市場価格に基づいている。市場に出せない箱にならない半端な量の地元の魚は直接消費者に安価で提供して、対馬の魚の良さをアピールしたい。地元の人はもちろん、観光客にも対馬のおいしい魚を食べさせられるような機会を提供したい。そして、次の世代も対馬で漁業を営んで生活できるように漁業資源を守りたい。