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沖縄奄美自然環境事務所

報道発表資料

2021年09月27日
  • その他

令和2(2020)年度沖縄島北部地域におけるマングース防除事業の実施結果及び令和3(2021)年度計画について(お知らせ)

環境省と沖縄県は、連携協力して沖縄島北部地域において外来生物法で特定外来生物に指定されているフイリマングースの防除事業を行っています。令和2(2020)年度はSFライン*以北で33頭のマングースが捕獲されました。最も捕獲数が多かった平成19(2007)年度に比べると、19分の1程度となり、引き続き低密度な状態を維持できていると考えられます。 また、SFライン以南の第一バッファーゾーン**では25頭、第二バッファーゾーン***では389頭のマングースが捕獲され、第一バッファーゾーンでは低密度化が進みつつあると考えられます。 また、防除事業の効果検証のために在来種の生息状況を調査した結果、ヤンバルクイナなどを含む希少な在来種の生息状況の回復が見られました。 令和3(2021)年度は「第3期沖縄島北部地域におけるマングース防除実施計画」の5年目として同計画の見直しを行うとともに、SFライン以北からの完全排除に向け、引き続き捕獲圧をかけられるよう同様の体制で作業を実施しています。

*SFライン:大宜味村塩屋から東村福地ダムの福上湖を経て大泊橋に至る、第一北上防止柵が設置されているラ

イン

**第一バッファーゾーン:沖縄県により設置された第一・第二北上防止柵に挟まれたエリア

***第二バッファーゾーン:沖縄県により設置された第二・第三北上防止柵に挟まれたエリア

1.背景

フイリマングース(以下「マングース」という。)は明治43(1910)年に沖縄島の那覇市郊外に移入された外来種です。沖縄島南部に定着し、次第に分布域を拡大して、1990年代には塩屋湾(大宜味村)と福地ダム(東村)を結ぶ線(SFライン)より北へ侵入したと考えられています。マングースの分布域拡大に伴い、ヤンバルクイナなどの希少野生動物の分布域の縮小や生息数の減少が明らかになりました。

このため、平成12(2000)年度から沖縄県が、平成13(2001)年度から環境省がマングースの防除事業を開始しました。平成17(2005)年度には、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」に基づいてマングースが特定外来生物に指定され、SFラインより北の地域からマングースを根絶することを目標として防除実施計画を立て、この計画に沿って環境省と沖縄県が連携して防除事業を実施してきました。

これまでの対策により、マングースの生息数は大幅に減少し、ヤンバルクイナなどの希少種や、その他在来種の回復傾向が確認されています。また、マングースの捕獲に関する各種データの蓄積も進み、SFライン以北のマングースの完全排除に向けた方策を検討できる状況になってきました。

平成28(2016)年度には、これまでの成果を踏まえて防除実施計画の見直しを行い、新たに平成29(2017)年度から令和8(2026)年度までの10年間でSFライン以北のマングースを完全排除することを目標とした「第3期沖縄島北部地域におけるマングース防除実施計画(以下「第3期計画」という。)」を策定し、平成29(2017)年度からこの計画に基づき事業を実施しています。

2.令和2(2020)年度防除事業の結果

(1)実施期間

環境省 令和2(2020)年4月1日から令和3(2021)年3月31日まで

沖縄県 令和2(2020)年4月1日から令和3(2021)年3月31日まで

(2)事業実施区域(図1)

環境省 SFライン以北全域

沖縄県 SFライン以南の第一、第二バッファーゾーン

(3)実施体制

環境省26名、沖縄県9名の計35名のやんばるマングースバスターズ*で捕獲作業等を実施しました。

図1.令和2年度の防除実施区域

*マングースバスターズ:マングースの防除を専門的に行う雇用従事者

(4)捕獲結果

①SFライン以北(環境省事業)

令和2(2020)年度は、SFライン以北において、マングースを33頭捕獲しました(表1)。作業ごとの内訳は、わなによる捕獲(1,249,354わな日の捕獲作業)で28頭、非わな捕獲(探索犬とハンドラーの連携による捕獲)で5頭です。なお、わなでの捕獲作業には、従来使用してきたカゴわなに加えて、平成20(2008)年度から導入した捕殺式筒わなを在来種の分布状況に配慮しながら使用しました。

令和2(2020)年度の捕獲数は、前年度よりもやや減少し、最も捕獲数の多かった平成19(2007)年度(619頭)と比べると19分の1程度となりました。CPUE(1,000わな日あたりの捕獲数)は0.022となり、マングースの捕獲数は減少しています。

また、マングースが捕獲されたメッシュ**数は、これまでで3番目に少ない17メッシュとなり、捕獲範囲の縮小傾向が見られますが、平成24年(2014)年度から令和元年(2019)年度までマングースの生息情報がなかった県道2号線以北において、約9年ぶりにマングースが捕獲されました(図2、図3)。

なお、本事業では第3期計画に基づき、わな捕獲に加えて探索犬やセンサーカメラを用いた地域的な排除確認を北側から順次実施しています。SFライン以北全体でのマングースの個体数及び分布域は順調に縮減していると考えられます。

**メッシュ: 基準地域メッシュ(三次メッシュ)と呼ばれるもので、おおよそ1km四方。捕獲結果の集計に使用している。

マングースの他、在来種に悪影響を及ぼすおそれのある外来種としてクマネズミ276頭を捕獲、排除しました。また、在来種であるオキナワトゲネズミ76頭、ケナガネズミ28頭、アカヒゲ24羽などが混獲されました。なお、オキナワトゲネズミの推定分布域においては、生け捕り式のカゴわなを優先して使用しており、混獲されたオキナワトゲネズミのうち74頭はその場で放逐しました。

なお、死亡していた在来種は学術標本として管理するとともに、研究などに活用しています。マングースの捕獲に伴う在来種の回復効果を考慮しつつ、わな種によるマングースの捕獲方法及び設置区域を計画的に調整することにより、引き続き混獲防止に努めます。

表1.SFライン以北におけるマングース捕獲結果

※令和元年度までは沖縄県事業分との合計値

CPUEは1,000TDあたりの捕獲数



図2.SFライン以北のマングースの捕獲数と捕獲メッシュ数の年度別推移



図3.SFライン以北における年度ごとのマングース捕獲メッシュ(左上:H19、右上:H22、左下:H25、右下:R02)



②SFライン以南のバッファーゾーン(沖縄県事業)

SFライン以南の3つの北上防止柵に挟まれた2つの地域をバッファーゾーンとし、SFライン以北へのマングースの再侵入を防止するためにわなによる捕獲などを実施しています。令和2(2020)年度は、第一柵と第二柵で挟まれた第一バッファーゾーンにおいて、わなによる捕獲作業(159,714わな日)により計25頭のマングースが捕獲されました。第二柵と第三柵で挟まれた第二バッファーゾーンでは、わなによる捕獲作業(148,868わな日)で388頭、非わな捕獲で1頭の計389頭のマングースが捕獲されました。いずれのバッファーゾーンにおいても、捕獲作業が本格化した年度以降、捕獲数、CPUEともに減少傾向にあります。

表2.第一バッファーゾーンにおけるマングース捕獲結果

※平成25年度に第二柵を設置。平成27年度より第一バッファーゾーン全域での捕獲を開始

CPUEは1,000TDあたりの捕獲数



表3.第二バッファーゾーンにおけるマングース捕獲結果

※平成28年度に第三柵を設置。平成29年度より第二バッファーゾーン全域での捕獲を開始

CPUEは1,000TDあたりの捕獲数



図4.バッファーゾーンのマングースの捕獲数とCPUEの年度別推移

(左:第一バッファーゾーン、右:第二バッファーゾーン)



図5.バッファーゾーンにおける年度ごとのマングース捕獲状況(左上:H27、右上:H29、左下:R01、右下:R02)



3.在来種の回復状況について(環境省事業)

マングース防除事業では、マングースの捕獲排除に併せて、国内希少野生動植物種であるヤンバルクイナなどの在来種に関する調査を実施し、マングースの排除による効果を検証しています。

(1)ヤンバルクイナ

1980年代(発見当初)は大宜味村塩屋から東村平良以北に生息していたとされていますが、1990年代以降、沖縄島北部地域へのマングースの侵入と同時期に生息域が急激に縮小し、2000年代には国頭村と東村の一部にのみ生息している状況でした。平成30(2018)年度までの調査においては、東村側で生息域の回復が確認されていましたが、近年大宜味村側の大保ダムから国頭村との境においても生息域の回復が見られています(図6)。今後、マングースなどの外来哺乳類の排除が進むことで、大宜味村の西側やバッファーゾーンにおける生息域の回復が期待されます。

図6.ヤンバルクイナの生息確認メッシュの推移(左:H19、中央:H25、右R02)

(2)その他の在来種

オキナワトゲネズミおよびケナガネズミについては、平成20(2008)年度以降、新たな生息地が確認されていることから、徐々に分布域が拡大していると考えられます。SFライン以北の大国林道で実施している希少カエル類の調査では、年々オキナワイシカワガエル等の確認数が増加しており、令和2(2020)年度は大国林道のほぼ全線で確認することができました。ホルストガエルやナミエガエルの分布域についても南へ拡大傾向が見られています。今後、マングースの排除が進むことで、これらの種の生息域の回復が期待されます。

4.令和3(2021)年度防除事業計画

第3期計画の5年目として、同計画の見直しを行う予定です。また、SFライン以北からの完全排除に向け、引き続き捕獲圧をかけられるよう同様の体制で作業を実施するとともに、バッファーゾーンにおける残存個体の排除および第二バッファーゾーン以南からの流入防止に努めます。

(1)実施期間

環境省 令和3(2021)年4月1日から令和4(2022)年3月31日まで

沖縄県 令和3(2021)年4月1日から令和4(2022)年3月31日まで

(2)事業実施区域

環境省 SFライン以北全域

沖縄県 SFライン以南の第一、第二バッファーゾーン

(3)捕獲作業および実施体制

年間の捕獲努力量目標は、SFライン以北において100万わな日、第一バッファーゾーンにおいて10万わな日、第二バッファーゾーンにおいて11.4万わな日とし、環境省25名、沖縄県9名の計34名のやんばるマングースバスターズで捕獲作業等を開始しています。

■ 問い合わせ先
環境省 沖縄奄美自然環境事務所
所長  宇賀神 知則
沖縄県 環境部 自然保護課
世界自然遺産推進室長  島袋 直樹


担当:やんばる自然保護官事務所
(やんばる野生生物保護センター)
自然保護官